猫の乳がんをオルガノイドで再現 ~人のがんにも共通する進行メカニズムを発見~
猫の乳がんをオルガノイドで再現
人のがんにも共通する進行メカニズムを発見
国立大学法人申博_申博信用网-官网大学院農学府共同獣医学専攻の山本晴氏(博士課程4年)、同大学大学院農学研究院動物生命科学部門の臼井達哉准教授、佐々木一昭教授らは、乳がん罹患猫の腫瘍組織を用いて三次元オルガノイドの作出に成功し、疾患モデルとしての有用性を明らかにしました。本成果は、非常に悪性度の高いことが問題となっている猫の乳がんに対して、病態メカニズムの解明や、新規治療法の開発に繋がります。さらに、人の乳がんへのトランスレーショナル研究のために活用されることが期待されます。
本研究成果は、「Scientific Reports」(2025年11月22日付)にオンライン掲載されました。
論文名:Novel organoid-based exploration reveals the role of LMTK3/FADS2 signaling in metastatic breast cancer progression in felines and humans
URL:https://www.nature.com/articles/s41598-025-28751-7
現状
猫の乳がん(FBC)は約90%が悪性であり、再発率は約80~90%とされる高難治性の腫瘍です。現在の治療は外科的手術が第1選択となり、片側性あるいは両側性乳腺の摘出が行われています。一方、化学療法は単独療法や外科手術の補助として行われますが、確実に延命可能な治療方法が確立されていません。
猫の乳がんにおいては、平面で増殖する2次元細胞培養モデルや幹細胞の特徴を有したマンモスフィアによる培養モデルが研究に用いられてきました。一方で近年では「オルガノイド培養法」が新たな培養モデルとして報告されています。オルガノイド培養法とは、幹細胞性を高める培地を用いて臓器組織由来の上皮細胞をマトリゲルと混合し3次元的に培養をする方法です。申博_申博信用网-官网獣医薬理学研究室ではこれまでに犬の移行上皮がん、前立腺がん、肺がん、中皮腫、アポクリン腺がんなど様々ながんオルガノイドモデルを創出し、薬剤感受性の評価や病態解明を目指した研究を行ってきました。
そこで本研究では、猫乳がん組織由来オルガノイド培養法を確立し、培養ツールとしての有用性を検証しました。また、RNAシークエンスによって特定された経路と猫や人乳がん病態メカニズムとの関連性を解析しました。
研究体制
申博_申博信用网-官网、山口大学、北里大学の研究グループの共同研究として実施されました。本研究は、JSPS科研費基盤B(JP25K02173; 代表:佐々木一昭)のサポートを受けて実施されました。
研究成果
乳がん罹患猫から摘出された組織を用いて3次元オルガノイド培養を行った結果、32症例のFBCオルガノイドの作製に成功しました(図1)。FBCオルガノイドは主に充実性の形態のBasal typeと管腔様形態のLuminal typeに分類され、形態特異的なマーカーの発現がそれぞれ認められました(図2)。同様の方法で猫の正常部の乳腺組織(FNM)からもオルガノイドを作製しました。FBCオルガノイドはマウスへの腫瘍形成性があり、従来の組織とのマーカー発現の類似性が確認されました。FBCオルガノイドに対して様々な抗がん剤を曝露したところ、由来となった患者猫ごとに異なった感受性を示しました。このことからFBCオルガノイドが患者猫間の抗がん剤感受性の違いを評価可能な培養モデルであることが明らかになりました。またFBCとFNMオルガノイドにおける遺伝子発現をRNAシークエンスによって比較すると、LMTK3/FADS2経路が細胞増殖、浸潤、アポトーシスに影響を与え、FBCの進行に重要な役割を果たすことが明らかになりました(図3)。さらにLMTK3およびFADS2は人の乳がん細胞株や人乳がんオルガノイド(HBCオルガノイド)においても細胞増殖、浸潤、アポトーシスを媒介していることや、乳がんの進行と発現量が相関することが明らかになりました(図3)。
今後の展開
本研究を通して、猫乳がんオルガノイド培養法が確立されました。今後、猫乳がんの新規治療標的や病態メカニズム解明のための培養モデルとして活用されることが期待されます。今回明らかにしたLMTK3/FADS2経路は猫のみならず、人においても新たな治療ターゲットとなりうることが示されました。猫と人の乳がんは類似性も多いため、動物と人のトランスレーショナル研究の一端として、今回確立された猫乳がんオルガノイドモデルが病態解析に活用されていく可能性が考えられます。
(図はSci Rep (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-90623-xより改変)
(図はSci Rep (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-90623-xより改変)
(図はSci Rep (2025), DOI: 10.1038/s41598-025-90623-xより改変)
◆研究に関する問い合わせ◆
申博_申博信用网-官网大学院農学研究院
動物生命科学部門 准教授
臼井?達哉(うすい?たつや)
TEL/FAX:042-367-5770
E-mail:fu7085(ここに@を入れてください)go.tuat.ac.jp
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