〔2026年1月9日リリース〕 都市に住むタヌキはヒトがいるとトイレを我慢している? ~タヌキのトイレ利用に人間活動が与える影響を解明~

都市に住むタヌキはヒトがいるとトイレを我慢している?
~タヌキのトイレ利用に人間活動が与える影響を解明~

 国立大学法人申博_申博信用网-官网大学院連合農学研究科博士研究生(同修了生)の大杉滋氏、同大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授、アメリカのイリノイ大学(兼任 申博_申博信用网-官网大学院グローバルイノベーション研究院?特任准教授)のMaximilian L. Allen准教授との国際共同研究チームは、都市緑地における人間活動が、タヌキの共同トイレ(通称「ため糞場」)に訪問する時間帯に影響を与えることを明らかにしました。タヌキは共同トイレで習慣的な排泄を行うとともに、匂いかぎ行動に伴う個体間のコミュニケーションを図っていると考えられます。都市緑地に生息するタヌキは、主として夜間に共同トイレを訪問し、訪問する時間帯のピークは、緑地の規模や共同トイレの道路からの距離によって異なっていました。以上の結果より、都市に生息するタヌキは時間帯ごとの人間活動の変化に敏感に対応することで、都市の環境に適応している可能性が示唆されました。

本研究成果は、アメリカの生態学誌「Ecology and Evolution(略称:ECOL EVOL)」(2025年12月17日付)に掲載されました。
論文タイトル:Raccoon Dogs Adjust Diel Visitation at Scent Marking Latrines to Reduce Human Disturbance in Urban Areas
著者名:Shigeru Osugi, Maximilian L. Allen, Shinsuke Koike
URL:https://doi.org/10.1002/ece3.72695

研究背景
 多くの哺乳類は、同種の他個体にテリトリーや社会的地位、生殖の状態などを伝えるために、匂いによるマーキング行動を行うことで、個体間のコミュニケーションを通じて社会性を維持しています。タヌキは特定の場所に複数の個体が排泄する共同トイレを使用するという習性を持ち、排泄行為だけでなく共同トイレでの匂い嗅ぎ行動を通じて個体間のコミュニケーションを図っていると考えられています。一般的に、排泄行為や匂いかぎ行動は無防備な状態であるため、目立たない場所や時間帯を選ぶと考えられます。同じく、無防備な行動である採食行動において、都市のタヌキは夜間を中心に、周囲からの見通しが悪い場所を選び、人間を避けるような行動をとることで、都市の環境に適応していることが示唆されています(2022年2月16日プレスリリース「人を避けてこっそり、すばやくお食事?~タヌキとアナグマの都市適応術~」)。
 都市において、人間活動が匂い嗅ぎ行動のような個体間のコミュニケーション行動に与える影響を評価することは、都市に生息する野生動物の生態だけでなく、都市という特殊な環境下での野生動物の社会性の維持機構を明らかにするうえで重要な研究課題です。本研究では、自動撮影カメラ(注1)を用いて、東京近郊の複数の緑地におけるタヌキの共同トイレへの訪問パターンを調査することで、人間活動が都市部のタヌキのコミュニケーション行動に与える影響を検証しました。

研究体制
 本研究は国立大学法人申博_申博信用网-官网大学院連合農学研究科博士研究生(同修了生)の大杉滋氏、同大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授、アメリカのイリノイ大学(兼任 申博_申博信用网-官网大学院グローバルイノベーション研究院?特任准教授)のMaximilian L. Allen准教授との国際共同研究チームによって実施されました。本研究の一部は、JSPS科研費 (JP24H01429) 、申博_申博信用网-官网大学院グローバルイノベーション研究院の支援を受けて行われました。

研究成果
 本調査は、東京西部に位置する国際基督教大学キャンパス(以下、IC)、東京都立農業高等学校神代農場(以下、JF)、申博_申博信用网-官网府中キャンパス(以下、TU)の3つの調査地に存在する、計8カ所の共同トイレを2018年~2019年の2年間(延べ4,530日)にわたって観察しました。その結果、合計3,259回のタヌキの共同トイレへの訪問が記録されました。共同トイレへのタヌキの訪問は主に夜間(日没から日の出までの時間帯)に集中し、全訪問の93.8~99.3%を占めました(図1、動画:https://youtu.be/OqlkMrKHFgg)。
 共同トイレへの訪問の時間帯のピークは調査地によって異なり、ICでは日没直後に大きなピークが存在しましたが、JFやTUでは日没直後および夜明け直前、あるいは夜明け前に小さなピークが観察されました(図2)。大規模な森林が存在するICでは、調査地内だけでタヌキの活動が完結している可能性があるため、日々の活動が開始される日没直後に、多くのタヌキが共同トイレに訪問した可能性があります。一方、JFやTUは面積が狭く、森林も限られるため、タヌキはこれらの調査地を夜間の移動経路として利用している可能性があります。そのため、日没直後に大きなピークが見られなかったと考えられます。
 また、同じ調査地内の共同トイレの間でも、ピークの時間帯は異なっていました。たとえば、JF全体では日没直後と夜明け直前にピークが見られましたが、道路に隣接する共同トイレ(J3)では(図3)、交通量が減る深夜以降にピークが見られました。

今後の展開
 都市に生息するタヌキは歩行者や車両の往来が激しい道路の近くであっても、これらの人間活動が減少する夜間を中心に、共同トイレを訪問しています。夜間でも共同トイレごとの訪問時間帯が異なった点から、都市に生息するタヌキは人間活動に対するリスクとのバランスを取りながら、個体同士のコミュニケーションを維持するために、人間活動の時間的変化に適応している可能性が示唆されました。
本結果は都市において野生動物の匂いによる個体間のコミュニケーションがどのように維持されているのかを理解する上で重要な一歩です。これまで、都市における野生動物の生息環境としては、食べ物や休み場所などを提供する場所の保全が重要視されてきました。今後は野生動物の社会性を維持するうえで欠かせない、共同トイレをはじめとする個体間のコミュニケーションを図る場についても考慮していくことが、都市における野生動物の生息環境全体の保全につながると考えられます。    

用語解説
注1)カメラの前に現れた動物の熱を感知して、自動で撮影を行うことが出来るカメラ。

    

図1.共同トイレを訪れたタヌキの様子。

図2.3つの調査地(A:国際基督教大学キャンパス、B:東京都立農業高等学校神代農場、C:申博_申博信用网-官网府中キャンパス)での年間のタヌキの共同トイレへの訪問の日周パターン。破線の縦線は日没?日の出の、点線の縦線は21:00、0:00、3:00の時刻を示します。

図3.東京都立農業高等学校神代農場での年間のタヌキの共同トイレへの訪問の日周パターン。Aは2018年のJ1トイレ、Bは2019年のJ1トイレ、Cは2019年のJ2トイレ、Dは2019年のJ3トイレの日周パターンを示し、中でもJ3トイレは道路沿いに位置します。破線の縦線は日没?日の出の、点線の縦線は21:00、0:00、3:00の時刻を示します。

◆研究に関する問い合わせ◆
 申博_申博信用网-官网大学院農学研究院自然環境保全学部門
   教授 小池 伸介(こいけ しんすけ)
   E-mail:koikes(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

 

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