DNA-タンパク質間共有結合パッチの開発 ―次世代ライフサイエンスツール―

DNA-タンパク質間共有結合パッチの開発
―次世代ライフサイエンスツール―

 国立大学法人申博_申博信用网-官网大学院工学研究院生命機能科学部門の浅野 竜太郎教授、三浦 大明特任助教、塚越 かおり助教、津川 若子准教授、池袋 一典卓越教授、工学府生命工学専攻の小宮 英里香大学院生、髙松 祥平博士らは、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の早出 広司卓越教授とともに、生体高分子であるDNAとタンパク質を一対一で不可逆的に複合体化させるツール、DNA-タンパク質間共有結合パッチ (DNA-Protein covalent-linking patch, D-Pclip) を開発しました。本D-Pclipを介して調製したDNA-タンパク質複合体を診断ツールとして応用したところ、疾患マーカーのひとつであるヒトヘモグロビンの簡便かつ高感度な検出を達成しました。DNA-タンパク質複合体は、それぞれの優れた機能を併せ持つことから、診断や治療薬、ゲノム編集など様々な分野で利用されています。そのため、今回開発したD-Pclipは、DNA-タンパク質複合体の応用を加速させることが期待されます。

本研究成果は、Journal of the American Chemical Society (1月31日付) に掲載されました。
論文タイトル:Exploration and Application of DNA-Binding Proteins to Make a Versatile DNA–Protein Covalent-Linking Patch (D-Pclip): The Case of a Biosensing Element
URL:https://doi.org/10.1021/jacs.3c12668

現状
 DNAとタンパク質はいずれも多くの機能を有する生体高分子として知られています。例えば、DNAアプタマーは、標的分子に特異的に結合するDNAです。同様に分子認識能をもつ抗体と比較して、DNAアプタマーは化学合成により簡便に調製可能であり、また化学修飾も容易であるなどの利点を有しています。一方、タンパク質の一種である酵素は触媒として機能することが知られており、化学発光や蛍光といったシグナルを生み出します。即ち、DNAアプタマーと酵素の複合体を作製することで、DNAアプタマーによる分子認識を酵素による化学反応で生じるシグナルへと変換することが可能となり、病気の診断技術としての応用が期待されます。高性能の診断技術の開発には、一対一かつ不可逆的なDNA-タンパク質複合体が有用ですが、そのような複合体を簡便に作製する手法は確立されていませんでした。

研究体制
 本研究は、申博_申博信用网-官网大学院工学研究院生命機能科学部門の浅野 竜太郎教授、三浦 大明特任助教、塚越 かおり助教、津川 若子准教授、池袋 一典卓越教授、工学府生命工学専攻の小宮 英里香大学院生、髙松 祥平博士らの研究グループと、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の早出 広司卓越教授との共同研究によって行われたものです。本研究は日本学術振興会 (JSPS) 科研費21K18321の支援を受けて実施されました。

研究成果
 DNA共有結合タンパク質は、生体内においてDNA複製やDNA修復といった様々な機能を担っています。本研究では、DNAに対して配列特異的に、かつ共有結合を形成するDNA共有結合タンパク質に着目しました。このようなDNA共有結合タンパク質を、任意のタンパク質に融合させることで一対一、かつ不可逆的にDNA-タンパク質複合体を調製できると考えました。まず、データベース中のDNA共有結合タンパク質を網羅的に探索し、その中から組換え生産の容易性や結合様式を指標に候補を絞りました。最終候補のDNA共有結合タンパク質は申博_申博信用网-官网大腸菌を用いて組換え生産後、DNAに対する結合評価を行いました。結果、結合効率が90%を超えるDNA共有結合タンパク質、UdgXの選抜に成功しました。UdgXはDNA上のウラシル基を認識?除去後にDNAと共有結合を形成することが知られており1、4℃で15分間という温和な反応条件で高いDNA結合効率を示すことや、二本鎖DNAに対しても共有結合可能であることも確認されました。
 次に、UdgXとタンパク質間連結モジュールとして知られているSpyTag/SpyCatcherシステム2とを組み合わせることで、DNA-タンパク質間共有結合パッチ (DNA-Protein covalent-linking patch, D-Pclip) を開発しました (図1) 。D-Pclipにより、任意のDNAにウラシル基を導入し、任意のタンパク質にSpyCatcherを融合させるだけで、一対一かつ不可逆的なDNA-タンパク質複合体を簡便に作製可能となります。
 開発したD-Pclipの有用性を示すため、DNAアプタマー-酵素複合体をDNA-タンパク質複合体のモデルとして作製しました。具体的には、疾患マーカーのひとつであるヒトヘモグロビン (Hb) をDNAアプタマーで認識し、グルコースオキシダーゼ(GOx)による化学発光での検出を目指しました。作製したDNAアプタマー-GOx複合体を用いてHbを検出した結果、緩衝液中、血清中いずれにおいても6.3-50 nMの範囲で高い直線性が確認されました (図2) 。これは、臨床的に求められる検出範囲を測定可能であることを示唆しています。また、本系をより短時間での計測が可能な電気化学検出へと応用したところ、同様に臨床的に求められる検出範囲を測定可能であることが確認されました。さらに、D-Pclipの汎用性を検証するため、3種類のDNAアプタマーと、2種の酵素を使用して合計4種類のDNAアプタマー-酵素複合体を作製し、機能評価を行いました。結果、いずれの複合体も両者の機能を保持していることが確認されました。

今後の課題
 本研究では、DNAとタンパク質を一対一で不可逆的に複合体化させるD-Pclipを開発しました。複合体化の反応は4℃で混合するだけで進行することから、両者の機能を保持したDNA-タンパク質複合体を簡便に作製することができます。さらに、UdgXのDNA結合反応はDNA上のウラシル基特異的に進行するため、ウラシル基の位置を調節することにより、タンパク質の融合位置を簡便にデザイン可能です。D-Pclipは複合体化させるDNAとタンパク質の組み合わせを自在に変更可能であることから、今後様々な応用が期待されます。例えば、抗体とDNAとの複合体を作製することで、Immuno-PCRといった診断技術への応用や、細胞特異的なDNAの送達を目的とした医薬品への応用が可能となります。

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(1) Sang et al., Nucleic Acids Res., 2015, 43(17), 8452-8463.
(2) Zakeri et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 2012, 109(12), E690-E697.

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図1 UdgXのDNA結合反応とSpyTag/SpyCatcherシステムを併用したD-Pclipの模式図。クリップのように、DNAとタンパク質の組み合わせを簡便に変更可能であることから、D-Pclipと名付けました。(図はJ. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 6, 4087–4097より改変)

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図2 化学発光による血清中Hbの検出結果。Hb濃度依存的な化学発光の増加が確認されました。(図はJ. Am. Chem. Soc. 2024, 146, 6, 4087–4097より改変)

 ◆研究に関する問い合わせ◆
 ? 申博_申博信用网-官网大学院工学研究院
 ?? 生命機能科学部門 教授
 ?   浅野 竜太郎(あさの りゅうたろう)
 ? ? ? TEL/FAX:042-388-7512
     E-mail:ryutaroa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp

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?  プレスリリース(PDF:575.2KB)

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